アメリカミズアブの販売価格

 飼料用昆虫として注目されているアメリカミズアブの幼虫ですが、世界では取引価格はどのくらいになるのでしょうか。

 以下のyoutubeでは新鮮な幼虫は下記の値段で取引されています。(2分58秒)
アメリカミズアブの幼虫は60%が水分ですので乾燥させると約1/3程度になります。
 価格を考慮すると、高騰している魚粉の代わりとしても十分に対抗できると思われます。
 機械化を進めれば利益率も高く、商材として十分に成り立つようにも思えます。

新鮮な幼虫
59-74円/kg(0.4-0.5$/kg)

ここから乾燥させた重量あたりの価格を計算し、魚粉相場と比較しました。
乾燥幼虫から油を圧搾し、粉末と別に販売すれば全体的には利益率が上がると思います。

乾燥幼虫 180-220円/kg
魚粉相場 272.55円/kg(2023年8月)(https://www.worldbank.org/en/research/commodity-markets)

日本の魚粉の消費量

にぼし粉

 製造過程で魚油を圧搾することもありますが、魚粉は乾燥させた魚を粉砕して粉にしたものです。
 用途としては、養鶏用の畜産飼料、魚類の養殖飼料、農業用肥料として用いられることが多いようです。
 一般財団法人日本水産油脂協会の令和元年の報告書によると2019年の国内魚粉生産量は188,524tで輸入量は213,288tでした。
 合計すると約40万t(401,812t)となります。
 2016年では36,5万tの消費量で世界の約8%を消費している計算となっています。

2017年では約18万t(180,963t)が飼料として使われています。
 内訳は62%が魚類の養殖飼料、養鶏の畜産飼料22%、養豚の畜産飼料15%にとなっているます。

 

令和元年度事業報告書
http://suisan.or.jp/html/file/r01report.pdf

アメリカミズアブの生産費用

 魚粉の代替として養殖されるアメリカミズアブの幼虫ですが、養殖にはどのくらい費用がかかるのでしょうか。
 ご紹介するのはベトナムの方の動画ですが、最後に生産にかかる費用と収穫できる幼虫について記載がありました。(8分48秒あたりです)
 その費用が採算に合うのか、販売価格についても調べたいと思います。

 この動画ではおからを幼虫の餌として購入していますが、日本ではおからの一部は産業廃棄物として廃棄されています。
 おからを廃棄している企業から見ると廃棄するのに費用がかかっていますので、おからに関しては無料で頂けるかもしれませんし、廃棄手数料を頂ける可能性もあります。
  また、こちらの方は卵を購入して肥育していますが、卵から生産できればその購入費用も抑えられそうです。
 乳酸発酵水をヤクルトで代用してる動画もありますのでもう少し安価になるかもしれません。 

生産費用

 おから 50kg(幼虫の餌です)     :306円(50000ベトナムドン)
 ひよこの餌 (初期の幼虫の餌です)1kg : 73円(12000ベトナムドン)
 乳酸発酵水 15L(初期生育を促します) :92円(15000ベトナムドン)
 アメリカミズアブの卵 5g       :183円(30000ベトナムドン)

合計 654円(107000ベトナムドン)

収穫できた幼虫 15kg(43.6円/kg)

魚粉のおはなし

 魚粉はカタクチイワシを圧搾した固形成分を乾燥させて作ります。
魚粉は魚や養鶏などの飼料のタンパク源として利用されることが多く、魚の養殖用飼料に50%、養鶏用の飼料に10%程度含まれています。
 ですが、カタクチイワシの漁獲量が上限となり、また、サーモンなどの魚の養殖も世界中で盛んになっており、魚粉価格はここ20年で4倍近く高騰しています。
 具体的には1tあたり20万円と非常に高価な資源となっています。
 そこで魚粉の代わりとして養殖した昆虫タンパク質を利用することが注目されています。

 アメリカミズアブの幼虫ですが乾燥重量あたり50-60%ほどのタンパク質が含まれており高タンパクな原料として活用することが可能です。
 昆虫養殖用の餌としてはほとんどの有機物質を分解できるので、昆虫の餌に困ることはありません。
 海外では魚粉の代わりに積極的に昆虫が利用されており、魚、にわとり、ぶたなどの養殖用飼料として活用されています。
 

飼料昆虫から生産されるもの(タンパク質、油脂、肥料)

 廃棄される有機物を餌として養殖される昆虫の幼虫ですが、生産物としていくつかのものがあります。

 生産された幼虫は、そのまま出荷されることもありますが、乾燥させてから原料として出荷されることがあります。
 乾燥後粉末にして家畜などの飼料として直接加えられることもありますが、絞ることで動物性油脂を分離することが出来ます。
 この段階で、動物性油脂と絞った粉末に分けられます。
 それぞれに用途があり、油脂を絞った粉は魚粉の代わりのタンパク質として、家畜などの飼料に添加され利用できます。
 また油脂は、家畜用飼料の添加物、ペットフードの添加物として利用できるだけではなく発展途上国などでは石鹸に加工して利用することも可能です。

 また、生産段階で出てくる幼虫の糞や脱皮後の抜け殻は良質な肥料として使用可能です。
一般的に有機物を肥料をとして活用するには発酵過程に数ヶ月かかります。
 ですが、幼虫が食べ、糞や抜け殻を肥料として活用するには10日前後で可能です。
短期間で有機物を肥料にするために活用する事もできます。
 

ロンドンのビルで昆虫養殖

 昆虫の養殖には餌が必要です。餌を運搬するためにエネルギーを使うのは効率的ではありません。

 昆虫養殖の良い点は大型の機械設備が不要な点です、小規模工場を餌となる有機物の近くに養殖工場を建てることが出来ます。
 今回はロンドンのビルの中で養殖をしてる動画を紹介します。
こちらの動画ではジャガイモやコーヒーの糟を餌として利用しているようです。
4m立方の部屋で1日1tのアメリカミズアブの養殖が可能と言っています。
 給餌ロボットを開発して幼虫への餌やりを効率化しています。

アメリカミズアブの養殖に必要な面積

 愛媛大学とDNPが協力して年間100tの乾燥ミルワームの出荷を目指していると言う記事がありました。

 アメリカミズアブの幼虫で考えると約2/3は水分ですので、乾燥前で約300tの生体が必要となります。
 ざっくりと1日800kgの生産が必要な計算です。
 では実際にどのくらいの生産面積が必要になるのでしょうか?
 下記のyoutubeでは3m×5mの空間で10-15kgの幼虫を毎日出荷する方法を紹介しています。
そこから計算すると30m×50mあれば生産量は100倍になり、1000kgから1500kgの収量が見込めます。
ただ、動画を見ると作業空間がかなりの面積を占めており、養殖棚だけを並べると5倍ぐらいは置けそうです。また、縦方向にも3倍ぐらいは養殖用のパレットを配置できそうです。
 それを考えるとその面積の1/15ぐらいの面積で生産が可能かもしれません。
 効率的に棚を工夫すれば10m×10m程度の面積で幼虫の養殖は可能だと思われます。

BRILLIANT!!! Small & Efficient place to cultivate Black Soldier Fly…

アメリカミズアブの餌となるもの

アメリカミズアブは世界各国に分布するハエ目ミズアブ科の昆虫です。
その幼虫は2cm程度と大きく、ふるいによる選別が可能で飼料用昆虫タンパク質として世界で広く認識されています。

非常に幅広い有機物を餌として食べることができます。

具体的には、人間の残飯、フルーツ、動物の糞尿などの排泄物、おから、ふすま粉、ビールの絞りかす、酒粕、コーヒーやお茶の出涸らし、水草など大抵の有機物を食べて成長します。

全世界で生産されている食物のうち廃棄されている量は1/3程度で、年間13億トンとの報告もあり、アメリカミズアブの餌には困ることはなさそうです。

世界の食料ロスと食料(2011年)

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html

養殖魚用配合飼料の補助金について

養殖魚用の配合飼料の約50%はカタクチイワシから作られる魚粉です。
ここ20年で魚粉価格が4倍近くなっていますが、将来の漁獲量を確保するために制限があり、漁獲量はほぼ上限に達していると言われています。
配合飼料の一部でも養殖された昆虫タンパク質に置き換えることが出来れば、魚粉価格の高騰がおきても、配合飼料の価格上昇は緩やかになると考えられます。

また、近年の光熱費の上昇もあり、配合飼料の価格は上昇しています。

宮城県や静岡県など複数の県では配合飼料の補助金申請を受け付けています。

令和5年度宮城県養殖業飼料価格高騰対策事業費支援金について

https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/suikisei/r5shiryoukoutou.html

アメリカミズアブの飼育残渣を使って食品廃棄物の臭気を抑える研究について

農研機構、東京大学、筑波大学による共同研究です。
 アメリカミズアブの飼育残渣を食物廃棄物に加わることで、食品廃棄物などから発生する腐敗臭を7分の1に減らせるという研究です。
 餌となる食物廃棄物に飼育残渣を事前に加えることで飼育環境の匂いを減らすことが期待されています。
 もちろん飼育した幼虫は飼料用のタンパク質や脂質として利用することも出来ます。

(研究成果) 昆虫の力を借りて食品廃棄物の臭気を抑える技術を開発

農研機構、東京大学、筑波大学の研究グループは、アメリカミズアブ幼虫の腸内細菌叢を含んだ飼育残渣を食品廃棄物に加えることで、食品廃棄物が発生する臭気を抑える技術を開発しました。本技術は、ミズアブを使った食品廃棄物の処理時に生じる悪臭の問題を解決し、ミズアブ処理による食品残渣のリサイクルの拡大と昆虫タンパク質の生産拡大に貢献します。

アメリカミズアブ(以下、ミズアブ)は食品ロスや生ごみなどの食品廃棄物を栄養源としても発育できる昆虫です。このミズアブを家畜や養殖魚の飼料のタンパク質源として利用する技術が世界的に広がりつつあります。一方、食品廃棄物を処理する際に悪臭が発生することが、ミズアブを利用した廃棄物処理プラント建設の障害となっています。

農研機構、東京大学、筑波大学の研究グループは、ミズアブが腸内細菌叢の力を借りて有機物を効率よく分解すること、食品廃棄物をミズアブのエサとして飼育した残渣には腸内細菌が大量に含まれることに着目しました。

食品廃棄物でミズアブを飼育すると、ミズアブを入れないで放置する場合と比較して、悪臭の主原因である二硫化メチル4)三硫化メチル5)等が激減しました。また、ミズアブを飼育する場合としない場合の食品廃棄物内で増殖する細菌の種類を比較したところ、ミズアブの有無により細菌の種類が大きく異なることを発見しました。ミズアブを飼育した食品廃棄物では、細菌の種数が減少する一方で、ラクトバシラス属6)エンテロコッカス属7)の細菌の割合が大きく変化していました。以上のことから、これらの細菌が悪臭の原因となる物質の蓄積を抑え、悪臭を抑制していると考えられます。

さらに、ミズアブの飼育残渣をエサとする食品廃棄物にあらかじめ加えることで、食品廃棄物が腐敗する際に発生する臭気を大きく抑制できることを明らかにしました。本技術によりミズアブ飼育の際に食品廃棄物から発生する臭気が抑えられ、ミズアブを利用した廃棄物処理プラントを建設する際の障壁を取り除くことができます。また、本技術は導入が容易であり、追加の投資もほとんど不要であることから、ミズアブによる食品廃棄物処理の利用拡大に大きく貢献します。

https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/158033.html